一大秘法と三大秘法の解明、そして、その現代的意義

一大秘法の解明と、その現代的発展
  立教開宗750年を2002年にひかえ、日蓮宗の大きな使命は、現代を実際にいきる人々の抱える様々な悩みや、問題に答え現実に人々を救済してゆくことにあります。この使命の遂行によって本宗もはじめて生きた宗門たりえるのであります。ところで此れらの人類の抱える諸問題は、現代においては、人類の生活が地球規模に有機的につながり、かつその生活が現代科学の最先端の成果の上に成り立っているので、グローバルかつ複雑化しています。したがって、その問題の解決のためには、本宗の教えの現代化と、それが立脚するグローバルな視点の獲得が必要です。なかでも日蓮宗の教義の中心である一大秘法の妙法蓮華経の五字の現代的解明とその発展が、次の世紀に向けて要請されます。
成仏による救済
 ここで日蓮宗における救済とは何かを、考える必要があります。全ての仏教と同様に、日蓮大聖人の仏教の目的は、自他の成仏による人々の救済にありました。仏教に於けるオリジナルな救済の意味は、人を生老病死の四苦と云う生存苦から救うことです。即ち対個人の救済は、人の意識の進化を加速させ、輪廻転生の意識レベルから超越させる、即ち生存苦から成仏によって超越させることにあります。また、人類全体に対する救済は、時代意識、社会意識、国家意識等の進化を加速させ地球規模の現代的諸問題を現実的に解決してゆくと云う全体成仏という救済原理によって成し得ることが出来ます。大聖人は、この成仏による救済について、次のように仰せになられています。
 「日蓮は少より今生のいのりなし、只仏にならんとをもふ計なり。」  
 (四條金吾殿  御返事・九O三頁 定遺1384頁)五六歳著、内三九ノ三七
 「我不愛身命の法門なれば捨命、此法華経を弘めて日本国の衆生を成仏せしめん。」
 (波木井殿御書・定遺1926頁)
     弘安五年十月。六十一歳。於武蔵池上作。
     外二五ノ三三。遺三〇ノ五三。縮二一〇七。類三八五。
 人類の救済のためには、成仏をよく解明し、それを現実に可能なものとしなければなりませんが、その為には、成仏の目標である仏陀を明らかにせねばなりませんでした。日蓮大聖人は、釈尊の悟りの内容を解明することによって、仏陀を明らかにしました。即ち、宗祖は、四重興廃、五重相対という思想を比較する作業によって、全人類 の思想の中で仏教、仏教の中で大乗仏教、大乗仏教の中で法華経、法華経の中で本門、そしてその観心が最も優れた悟りの実体(リアリティー)であるとして、全仏教を本門の観心に帰納いたしました。つまり、釈尊の悟りを本門の肝心として捉えられました。
久遠の本仏それは大宇宙そのもの
  法華経寿量品に説き顕わせられた釈尊の悟りとは、釈尊自らの本体が久遠の本仏であるるということです。即ち、釈尊は、永遠の昔より生き続ける無始無終の宇宙の大生命をお悟りになったのです。即ち寿量品には、
 「我仏を得てよりこのかた、経たる所の諸の劫数 無量百千万 億載阿僧祇なり」
 (妙法蓮華経如来寿量品。平楽寺268頁)
と説かれています。
 また宗祖は、『懐中』(かいちゅう、えちゅう、伝教大師著、または皇覚著)の言葉を借りて、この久遠の仏が大宇宙そのものであることを、つぎのごとく仰っています。
 「又云く『次に随自本門真実の本とは、釈迦如来は是れ三千世間の総体、無始より来本来自証無作の三身、法法、皆具足して闕減有ること無し』。文に云く『如来秘密神通之力』と。」(今此三界合文 定遺2292頁)原文漢文      文応元年。三十九歳著。
     外一六ノ九。遺七ノ二三。縮三九九。類一二四三。
このように、現実の釈尊に宇宙大の本仏が具足するという仏陀観を法華経が持つのは、法華経が成仏の目標である仏陀観を発展させてきた大乗経典の最高発展段階にあることからの必然的帰結でもあます。
 この久遠の本仏を、宗祖は釈尊一人の本体のみではなくして、我ら衆生即ち全人類の本体としての本仏でもあるとして、宗祖は、
 「我等が己心の釈尊は、五百塵点、乃至所顕の三身にして、無始の古仏なり。」(如来滅後後五百歳始観心本尊鈔遺全八七頁。定遺712頁 )と、お説きになっています。
 即ち宗祖は、釈尊のお悟りを解明し、成仏の目標である仏陀を久遠本仏たる大宇宙とし、またそれが全人類の己心に具足するがゆえに一切衆生の成仏の目標足り得るとしているのです。
久遠の本仏の実体
 宗祖は、さらに、その久遠の本仏の実体、本門の観心即ち全人類の内観を観心本尊鈔の中で、四十五字法体として、詳しくご教示下さっています。即ち、
 「今本時の娑婆世界は三災を離れ四劫を出でたる常住の浄土なり。仏既に過去にも滅せず未来にも生せず、所化以て同体なり。此れ即ち己心の三千具足の三種の世間なり。」 (如来滅後後五百歳始観心本尊鈔・定遺712頁)文永十年四月。五十二歳。
     於佐渡著。与富木常忍書。真蹟在中山法華経寺。
     内八ノ一〇。遺一四ノ三二。縮九二八。類八三。
 仏とは寿量本仏、所化とは九界の衆生が、同体となり、不生不滅の仏の生死相を現じています。即ち、このような寿量本仏は永遠の万有の本体でありますが、同時にその永遠不滅の命の姿をを九界生死の上に顕現するものです。事の一念三千観とはそういう仏界を本地とする九界の認識であります。
 即ち、個々の衆生と云うような自己完結せる独立的実体性をもった生命単位は存在しえません。無限の仏は、多なる生命単位の有機的システムとして、九界、娑婆世界、宇宙空間となって顕現しているのです。全ては一なる寿量本仏の現れであります。そして全ての生命と存在は相関係し合い、有機的に連鎖し、一なる生命体、本仏を構成しています。
 「妙法の二字は玄義の心は百界千如、心、仏、衆生の法門なり。止観十巻の心は一念三千、百界千如、三千世間、心、仏、衆生三無差別と立て給ふ。一切の諸仏、菩薩、十界の因果、十方の草木、瓦礫等、妙法の二字にあらずと云ふ事なし。」
 (唱法華題目鈔・定遺203頁)
     文応元年五月。三十九歳。於鎌倉名越著
     内一一ノ一九。遺六ノ二四。縮三二二。類二四三。)
 このような宗祖の本仏観は、大宇宙を仏の生命として認識する宇宙生命観であります。
妙法蓮華経こそ本仏
宗祖は、この大宇宙の生命たる本仏が、妙法蓮華経であると説かれています。即ち、諸法実相鈔には、次のように、述べられています。
 「されば釈迦、多宝の二仏と云ふも用の仏なり。妙法蓮華経こそ本仏にてはおはし候ヘ。経に云く「如来秘密神通之力」是れなり」
 (諸法実相鈔・遺全三九〇頁・定遺724頁)
 観心本尊鈔四十五字法体に続く文章には、本門の肝心、即ち四十五字法体が、イコール 南無妙法蓮華経の五字であるとして、次のようにお説きになられています。
 「此の本門の肝心たる南無妙法蓮華経の五字に於ては、仏、猶ほ文殊、薬王等にも之を付属し給はず何に況や其の已下をや。」(如来滅後後五百歳始観心本尊鈔712頁)
妙法蓮華経の五字の意味
 宗祖は、大宇宙生命たる本仏を一大秘法の妙法蓮華経の五字とお呼びになっていますが、ここで、妙法蓮華経の五字を整理してみます。
 釈尊の悟り=法華経寿量品の久遠本仏=三千世間の総体=宇宙=四十五字法体=事の一念三千=本門の肝心=一大秘法たる妙法蓮華経の五字
三大秘法の解明とその現代的意義
 以上から、一大秘法たる妙法蓮華経の五字とは、仏教並びに日蓮仏教の目的である成仏を追求してゆくところに現れる釈尊の悟り、即ち宇宙総体たる本仏であるといえます。換言すれば、成仏を追求していった所に現れた仏陀の実体であります。
 従って、妙法蓮華経とは、大宇宙そのものです。つまり妙法蓮華経とは、人間と宇宙の所謂ユングの共通的無意識を更に発展させたような根元意識であり、また、その現れである現象世界の銀河系や大宇宙の星々と、そこに存在するアメーバーから人類に至るまでの生命の総体であります。
一大秘法、久遠本仏への現代宇宙論からのアプローチ
 現代の最も有力な宇宙論は、ビックバン理論です。これはロシア生まれのアメリカの物理学者ガモフが1948年に発表したものですが、宇宙は、約150億年前、高温、高密度の状態から爆発的に膨張して今に至ったとする宇宙論であります。この爆発は時間も空間も物質さえもない一つの点即ち、特異点から始まったとされますが、この爆発前の宇宙の状態はまさに、主客合一、物質も精神も時空間さえもが一点に合一しています。此れが正に宇宙という仏の境と智が冥合しているオリジナルな状態です。宇宙は境智冥合の一点、一者から膨張発展し多数存在となり、更に境地冥合の一点に集約されて行くとおもわれます。つまり、宇宙の最終目標は境地冥合であるといえます。 
 「又云く『後の十四品は正く如来久遠の成道を明す。地涌の菩薩涌出し先づ久成の相を 顕して、寿量品に正く久遠の成道を説く』文。又云く『本門に於て亦二種有り、一には 随他の本門、二には随自の本門なり。初に随他の本門とは五百塵点の本初の実成は正く 本行菩薩道所修の行に由る。久遠を説くと雖も其時分を定め、遠本を明すと雖も因に由 つて果を得るの義は始成の説に順ず。具に寿量品の中に説く所の五百塵点等の如し』文。 又云く『次に随自本門真実の本とは、釈迦如来は是れ三千世間の総体、無始より来本来 自証無作の三身、法法、皆具足して闕減有ること無し』。文に云く『如来秘密神通之力』と。観普賢経に云く『釈迦牟尼仏名毘 盧舎那遍一切処其仏住処名常寂光』文。」
(今此三界合文定 定遺2292 遺全二九〇−二九一頁)(原文漢文)文応元年。三十九歳著。外一六ノ九。 
 またこの聖文では、久遠本仏を三千世間の総体と説かれ、宇宙法界そのものとお説きになられていることが非常に重要です。即ち、久遠本仏の仏身は大宇宙そのものとお説きになられているのです。また大宇宙そのものであるがゆえに、久遠本仏は無始なのです。しかるに、今日の宇宙理論のビック・バン理論によると宇宙創成が約150億年とされているのも、五百塵点の表現による久遠本初と比較して、興味深いものがあります。ここに科学と仏教の一致をみることが出来ます。
 此のように、久遠本仏が宇宙そのものであるとしますと、他の諸仏は必然的に久遠本仏の分身の諸仏とならざるをえません。宇宙の総体そのものである釈尊のなかに他仏は、存在しえないからです。
 「今法華経は四十余年の諸経を一経に収めて、十方世界の三身円満の諸仏をあつめて釈迦一仏の分身の諸仏と談ずる故に、一仏一切仏にして妙法の二字に諸仏皆収れり。」
(唱法華題目鈔 定遺203 遺全二七〇頁)文応元年五月。三十九歳。於鎌倉名越著 内一一ノ一九。 
 この分身の諸仏の思想も、ビック・バン理論による宇宙大爆発と比較して考えると、原初に於いて、久遠の釈尊が分身散体してその分身諸仏を生んだことになります。以上の論理から言うと、我ら衆生も宇宙の総体そのものである久遠の釈尊を構成する一つ一つの構成分子であり、我ら衆生は久遠本仏と一体であります。
 即ち 釈尊と法華経と我等との三は全体不思議の一法で同体です。ここに於いて、仏陀の構造のなかに、宗祖は、我ら凡夫の成仏の構造を内包させて捉えられています。つまり、釈尊と我らが同体であることによって、我ら凡夫は、寿量品の仏陀を成仏の目標とすることが出来、成仏のときには、久遠本仏そのものとなる事ができるのです。
現代科学における宇宙生命論
 現代科学は、宗祖の宇宙生命観へ接近しつつある。近年、宇宙飛行士による宇宙空間からの地球の俯瞰によって、地球が一つの生命体であるとの生命観がもたらされた。漆黒の宇宙から見た青い地球の美しさに宇宙飛行士たちは、皆一様にショックを受けました。即ち、彼らは、暗黒の宇宙に浮かぶ美しい地球に宇宙の大生命を感得したのです。このような生命観は、大聖人の本仏観に接近しつつあります。
 このような地球生命観の提唱者の一人がジェイムズ・ラヴロックであります。彼は、1919年生まれのイギリスの生物物理学者ですが、その著書『地球生命圏』(スワミ・プレム・プラブッタ訳・工作舎36−37頁)のなかで次のように述べています。
 「そのときから、私たちはガイアを、地球の生命圏、大気圏、海洋、そして土壌を含んだひとつの複合体と定義している。つまり、この惑星上において生命に最適な物理化学 環境を追求するひとっのフイードバック・システム、あるいサイバネティック・システ ムをなす総体である。」
 (『地球生命圏』36−37頁スワミ・プレム・プラブッタ  訳・工作舎)
 このようなガイアという地球総体が、生命体として進化してきているという観点から人類を観察するなら人類は地球という上位システムを構成する下位システムといえます。
 ここで宇宙総体を縮小して、地球総体と置き換えて、地球総体即ちガイアは、本仏であり、妙法蓮華経の五字たる一大秘法であるといえます。我々人類は、このようなガイアの思想を南無妙法蓮華経と信唱受持し地球本仏と一体化し、人々と異体同心に調和してゆく所に自分の成仏も地球自体の、即ち法界の成仏も成立してゆくことになります。このように、考えていくとガイアの思想も宇宙総体を生命と観る大聖人の生命観に近いところまで、将来発展することでありましょう。
一大秘法とDNA
 無限なる宇宙空間との一体、永遠なる生命との一体を知ることが悟りでありますが、この宇宙生命との一体を妙法蓮華経の五字の南無妙法蓮華経の七字による信唱受持として受け取るのが日蓮仏教の成仏であります。
日蓮大聖人は、この妙法五字を成仏得脱の種子として人類救済を始められました、すなわち、妙法五字は、種子、南無妙法蓮華經は、下種であります。
 「本門の肝心寿量品の南無妙法蓮華經を以て下種と為す」
(教行證御書 遺全五三一頁・定遺1480頁)
 この妙法五字を、一大秘法と言います。
 「大覚世尊、仏眼を以て末法を鑒知し、此の逆、謗の二罪を対治せしめんが為に、一大秘法を留め置き給ふ。」
  (曽谷入道殿許御書・定遺900頁)(曽谷第二書)(原文漢文)
  文永十二年三月。五十四歳作。与曽谷氏、太田金吾書。真蹟在中山法華経寺。     内 二五ノ一。遺一七ノ一四。縮一〇九六。類三〇二。
 ここで、現代生物学による会通を試みると、遺伝子の本体は、DNA、デオキシリボ核酸とされ、その分子構造のなかに遺伝的形質を支配する情報を含んでいます。ヒトの受精卵はDNA中の塩基の配列による情報に従って、ヒトへと発生して行きます。妙法五字の仏の遺伝子は、その宇宙の仏の構造を遺伝情報としてそのなかに含み、信唱受持によって、法華経の行者の心田に下されるとき、下種即脱して行者は即身成仏するのでありましょう。すなわち、呵責謗法滅罪鈔に、宗祖は、
 「末法の始に妙法蓮華経の五字を流布して、日本国の一切衆生が仏の下種を懐妊(姙)すべき時也。」
  (呵責謗法滅罪鈔・定遺787頁)(四条第七書)
     文永十年。五十二歳作。与四条金吾書。
     外一六ノ一三。遺一五ノ三二。縮一〇一一。類四八四。
と仰っています。
  つまり、観心本尊抄に、
 「釈尊の因行果徳の二法は妙法蓮華経の五字に具足す。我等此の五字を受持すれば自然に彼の因果の功徳を譲り与へたまふ。(中略)釈迦、多宝、十方の諸仏は我が仏界なり。其跡を紹継して其の功徳を受得す。」(観心本尊抄 遺全八七頁 定遺711頁)
と宗祖がおっしゃられていますように、我ら衆生は御本仏の仏位を相続し、即身成仏するのであります。ここで仏種とは、仏即ち、大宇宙の遺伝子を含む種子です。ところで、このことを現代学の立場からさらに、考察してみると、妙法蓮華経五字の仏の遺伝子には大宇宙の進化の情報が全て含まれることになります。
 遺伝子を含む染色体のひとそろいであるゲノムには、進化の情報が全て含まれています。ここでゲノムとは、何かというと、Microsoft Encarta97によると、次のように述べられている。
 「ゲノム Genome ある生物種が成立するのに必要最小限の遺伝子をふくむ染色体のひとそろいをゲノムという。配偶子(半数体細胞)にふくまれる染色体の全体と、事実上同じものを意味する。精子や卵子以外のふつうの体細胞(二倍体細胞)はゲノムを2組もっていることになる。ことなる種間でのゲノムを比較して、生物種の類縁の近さを知ろうとする研究をゲノム分析という。木原均がゲノム分析(実際には染色体のタイプと本数の比較)によって、コムギの祖先種をつきとめた研究(1930)は有名である。
  また最近では、遺伝子工学の技術を利用して、ヒトゲノムやイネゲノムを完全に解析する計画がすすめられている。」(Microsoft Encarta97)
 DNAのセットである「ゲノム」は、ヒトの場合、常染色体22本とX染色、体Y染色体の計24本の染色体(つまり24本のDNA分子)に含まれる約30億対のDNAの塩基配列であるとされています。ゲノムを解析すると、遺伝子情報だけではなく、その生物の進化の過程、起源となった生物、DNA上の過去に生じた変化等を、全て明らかにする事が出来ます。ヒトのゲノム解析は2005年までには、完了するとされていますが、これは、アメリカ、目本、ヨーロッパなどの国際協力によって進められており、この解析が完了すると、ヒトがどんな生物にから進化し、どのような経緯を経てきたかという、壮大な生命の歴史ドラマが明らかになります。(ニュートン1997年11月号参照)
一大秘法妙法蓮華経の五字は、本仏という大宇宙の空間的総体であると同時に、無機物からアメーバそして人類に至るまでの大宇宙生命の進化の時間的総体たる仏種であります。
 このところを、宗祖は、観心本尊抄に、
 「釈尊の因行果徳の二法は妙法蓮華経の五字に具足す。我等此の五字を受持すれば自然に彼の因果の功徳を譲り与へたまふ。(中略)釈迦、多宝、十方の諸仏は我が仏界なり。其跡を紹継して其の功徳を受得す。」(観心本尊抄 遺全八七頁 定遺711頁)
と仰せになり、因行果徳の二法という宇宙本仏の悠久の進化の歴史が、妙法蓮華経の五字に具足することを私どもにご教示くださっています。 
全ての生命の身口意三業は、宇宙生命体のDNAたる妙法蓮華経の五字の一大秘法に情報として記録され宇宙総体の進化を構成してゆくと言えるのではないでしょうか。
 三大秘法の解明とその現代的意義主にホログラム理論から
 三大秘法は、一大秘法にたいする信門であり、一念三千の仏種の三業受持であるから、一念三千を納めた妙法五字に南無を冠した形をとります。この三大秘法は、ことごとく成仏を目的として、宇宙構造たる仏陀観である一大秘法から割りだされてきます。本門の題目は、即身成仏の祈りであり、本門の本尊は、即身成仏の悟りであり(悟りのビジュアル化でもある)、本門の戒壇は、即身成仏の行いであります。 
 この三大秘法は、教主大覚世尊より日蓮大聖人が霊山浄土において直接相承された成仏のための行法であると記述されています。 、
 「此の三大秘法は二千余年の当初地涌千界を上首として、日蓮慥に教主大覚世尊より口決せし相承なり。今日蓮が所行は霊山の禀承に芥爾計りの相違なき、色も替はらぬ寿量品の事の三大事なり。」(三大秘法禀承事 定遺1865 遺全四八八)
 また、成仏の為の行法ですから、根本仏教における成仏の為の行法即ち三学に配当されて成立しています。学とは教訓の意味であり、修道の義です。したがって、三大秘法とは、一大秘法の功徳受持の修道方法であります。
 一、戒学……戒律
 二、定学……禅定
 三、慧学……智慧
三大秘法による成仏
 ここで、三大秘法とは、一大秘法に南無を冠した南無妙法蓮華経の七字であるから、大宇宙を口意身三業という人間の心意識と身体の全活動に受持する行法です。即ち、大宇宙をホログラム的にたたみ込み、またそこからホログラフイー的に大宇宙を展開している一大秘法の受持という行法による成仏の原義は、一大秘法たる大宇宙に一如し、それと一体化することです。つまり、外相承によってもたらされる仏陀観を、信によって三業受持するという成仏の行法に変換するのであります。
 「一念三千を識らざる者には、仏大慈悲を起し、五字の内に此の珠を裏て、末代幼稚の頸に懸けさしめ玉ふ。」
(如来滅後後五百歳始観心本尊鈔 定遺720頁)
     文永十年四月。五十二歳。
     於佐渡著。与富木常忍書。真蹟在中山法華経寺。
     内八ノ一〇。遺一四ノ三二。縮九二八。類八三。 。
 すなわち 、大宇宙とその全ての生命存在とに一如してゆくという大構造の成仏(異体同心)を実現しつつ、一大秘法をDNA的に自己の心田に下種しつつ進化してゆくというミクロ的成仏即ち進化を実現し、さらにその個の進化が総和され法界自体が進化成仏してゆくという行法であります。ここで、ホログラフィーについて説明すると、
 「ホログラフィー Holography 、3次元の写真画像をつくる方法。レンズをつかわないため、レンズレス撮影法ともいう。ネガはホログラムとよばれる。ホログラフィーの原理は、1948年にイギリスの物理学者デニス・ガボールが考案した。実際にホログラフィーによる撮影がおこなわれたのは、62〜64年にかけてレーザーが開発されてからで ある。80年代後半には、マイクロ波やX線のスペクトラムをつかったホログラム、実 際の色をうつしだすホログラムが開発されるようになった。音波をつかった超音響ホロ グラムもある。」
( Microsoft(R) Encarta(R) 97 Encyclopedia.)。
 このホログラフィー理論を使って宇宙モデルを提唱した人にカール・プリグラムがいます。カール・プリグラムは、スタンホード大学の教授を勤めたほどの有名な大脳生理学者ですが、かれはそれまでの機械論的な脳のモデルからホログラフィー的な脳のモデルを提唱しました。それは、脳の全体にホログラフィー的にたたみ込まれている記憶が存在するということを確認したからです。更にこの考えを発展させて、かれは全体が部分に備わるというホログラフィー的宇宙モデルを考えました。
 宗祖は、このような部分に全体が備わるというような宇宙モデルについて、次のように仰せになられております。
 「本門にいたりて始成正覚をやぶれば四教の果をやぶる。四教の果をやぶれば四教の因やぶれぬ。爾前迹門の十界の因果を打ちやぶ(破)て、本門十界の因果をとき顕はす。此れ即ち本因本果の法門なり。九界も無始の仏界に具し、仏界も無始の九界に備りて、真の十界互具、百界千如、一念三千なるべし。」開目抄(定遺552)
  文永九年二月。五十一歳。於佐渡著。真蹟於身延焼失。
     内二ノ一。遺一二ノ六。縮七四七。類二三
 このような、全体が部分にたたみ込まれているという、互具するという宇宙構造において、物質、精神、時間、空間、から構成される大宇宙はホログラフィー的に妙法五字にたたみ込まれており妙法蓮華経の五字は、大宇宙の仏種である。またその宇宙は、妙法蓮華経の五字からホログラフィー的に展開している。従って妙法蓮華経の五字を南無妙法蓮華経と受持することは、大宇宙そのものを受持する事に他ならない。つまり、妙法蓮華経の五字に帰命することは、大宇宙の実体とその法則に一体化することであり、大宇宙の万象と総和してゆくことであります。
 ここで、ミクロ的に個々の衆生の成仏の実体構造を考察するなら、三大秘法の実践とは、一大秘法たる本仏の方向に祈り、悟り、行いという円環的な繰り返しにより進化してゆくというスパイラルな進化構造をとります。
 そして、この全人的な進化活動は、人間の活動がDNAに変化を与えてゆくように、この大宇宙をホログラフィー的に現出している妙法蓮華経の五字、一大秘法の仏種に進化への変化を与えてゆく、全人類の三大秘法の受持による成仏進化は、全宇宙の更なる進化をもたらす。宗祖は、この所を法界の成仏として、次のように仰せになられています。
 「一念三千の佛と申は法界の成佛と云ふ事にて候ぞ。」(船守彌三郎許御書 遺全一一四四頁 定遺231頁)
 ここで一切衆生を成仏により救済しようという本仏の仏願仏業とは、大宇宙生命体である本仏自体が更なる成仏と進化を目指しているということでもあります。人間が三大秘法を実践し本仏の仏願仏業を継承するということは、人間が個々の成仏を目指すと共に宇宙進化を目指すと謂うことでもあります。
環境ホルモンの話
 環境ホルモンの特徴的作用の事例には、子宮内膜症の増加と精子減少を指摘することができます。近年、成人女性に子宮内膜症が増加しているが、このことにダイオキシンなどの環境ホルモンが影響しているとの考えられています。この見解を裏づけるのが、1977年にアメリカの研究グループが行った研究です。ごくわずかなダイオキシンを含むえさをアカゲザルに、一定期間あたえたところ、70%以上に子宮内膜症が発症しました。アカゲザルと同じ現象がヒトでも必ずしもおきるとは言えませんが、子宮内膜症と環境ホルモンとの関連付けて考える端緒となりました。
 また、ヒトの精子数の減少が、世界的に問題となっているののですが、1992年にデンマークのコペンハーゲン大学で生殖生物学を専門とするニルス・スキャケベクが行った研究によれば、デンマーク人の精子の数はここ50年で半減していると報告されています。このような研究の流れのもと、現在フランスやアメリカ,ベルギーなどでも精子数の推移に関する調査研究がなされるようになりました。日本においても、成人男性の精子数が少なくなってきたと言われています。胎児期ら成人までの期間、男性が大気汚染やさまざまな環境ホルモンにさらされています。(参照ニュートン19998−10月)この92年のデンマークの研究班は、40年には、精子数が1ミリリットル中一億千三百万個だったのが、九〇年には六千六百万に半減したとの報告をだしています。
 この精子数減少の日本に於ける実体はどうかというとやはり精子減少の衝撃的な事実が明らかにされています。北海道新聞には、次のように述べられています。
「『世界保健機関(WHO)の基準をすべてクリアしたのは五十人中、二人だけだったんです。』帝京大医学部の押尾茂講師(泌尿器科学)は、自分が行った調査結果に衝撃を受けた。研究室のモニターには、素人目にもその違いが分かる正常な精液と、異常が見られる精液の二つの顕微鏡映像が映し出されていた。押尾講師は、九六年四月から二年間かけて二十代の健康なボランティア五十人の精液を検査した。項目は精子の数、正常に動いている精子の割合(運動率)など五つ。その結果、WHOが定めた通常の性交渉で妊娠できる基準値を四十八人が下回っていた。
 運動率は平均で三〇弱と、WHO基準の五〇%を大きく下回り、精子数も一ミリリットル当たり平均約四千六百万個と、二十年前に昭和大が行った同様の調査の約一億個の半分以下だった。
 さらに平均四十二歳の四十四人を調査。精子数は七千八百万個と、本来少ないはずの年代の方が多いという結果が出た。押尾講師は『この二十年ほどの間に何かが起こったと推定できる』と分析する。」(北海道新聞平成10年5月12日)
 このように、人類の生殖システムを破壊する現象は、一体何故起こったのか。ダイオキシン等の環境ホルモンは、人間生活のの利便性を追求して様々な化学物質を製造することによって生み出されたのですが、此れらの欲望の追求のための科学技術の行使は、本仏たる宇宙、地球環境まで汚染、破壊してしまいます。
 人類と一体である人類の主師親たる本仏への破壊行為は、本仏の命をこの現象界に人間として、永遠に顕現するための人類の生殖システムにまで影響を及ぼしています。このような人類の化学物質製造による環境破壊行為の本質とは何か。それは本仏への反逆行為であり、一言でいうなら謗法であます。この謗法罪に対する罪報として法華経には、次のように説かれています。
「若し人信ぜずして 此の経を毀謗せば
 則ち一切世間の 仏種を断ぜん
 或は復・蹙して 疑惑を懐かん
 汝当に 此の人の罪報を説くを聴くべし
 若しは仏の在世 若しは滅度の後に
 其れ 斯の如き経典を誹謗することあらん
 経を読誦し書持すること あらん者を見て
 軽賎憎嫉して 結恨を懐かん
 此の人の罪報を 汝今復聴け
 其の人命終して 阿鼻獄に入らん
 一劫を具足して 劫尽きなば更生れん
 是の如く展転して 無数劫に至らん
 (中略)
 又復人に 悪み賎まれん
 常に飢渇に困んで 骨肉枯竭せん
 生きては楚毒を受け 死しては瓦石を被らん
 仏種を断ずるが故に 斯の罪報を受けん」
(法華経 譬喩品 平楽寺106−107)
 つまりは、法華経の世界観から観ると、人類は今や本仏、浄仏国土と相反する思想行動を取っているのです。日蓮大聖人の仏陀観によれば、本仏とは宇宙総体であり、成仏とは、その総和であります。したがって、三大秘法とは、本仏たる一大秘法に帰命して口意身三業に受持し、個人と全体の成仏をめざす行法です。即ち、三業受持とは、宇宙、地球、国土、環境に全人格的に調和し、自己と環境、宇宙を進化させて行く、個人的および社会的活動といえましょう。人類の救済は一大秘法を口意身に受持すると云う三大秘法の実践
によりもたらされる人類意識の進化と地球環境の改善と調和により達成されます。一天四海皆帰妙法の祖願達成により、人類救済はなしとげられるのです。